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「…なに?」
「何って、ゲーム」
家庭用ゲーム機をセッティングして、俺にコントローラーを握らせる。そして、問答無用でスタートさせる。
「ほら、始まるぞ」
「え? ちょっ!」
始まるぞって、俺はゲームなんてやった事がない。
結局、俺はスタートこそできたものの、ゴールはできなかった。その事実に、明家は驚いている様子だ。
「もしかして、ゲームしない子だった?」
「あぁ」
「これ、国民的レースゲームよ?」
知るかそんなもの!
「友達の家とかでも、やった事ない?」
そんな友達がいたらこんな性格してないっての!
思わず俺は睨み付けた。色んな鬱憤をぶちまけるような怒りの目だ。それに、明家は少し怯んで、申し訳ない顔をした。
申し訳ない顔するな! 余計に…惨めになる。
「あんたさ、休日どうしてんの?」
「読みたかった本を読んだり、行ってみたかったショップを巡ったり、ドライブしたり」
「一人?」
「一人だが」
いちいち気に障る。昔から、こういう弄り方をされるのが嫌いだった。
全身からイライラオーラを出している。こういう時、普通の奴は適当に濁してその場を去る。そういうのには慣れている。だがこの男はあろう事か、目を丸くしたままとんでもない事を言ってのけた。
「それって、楽しい?」
ピシッ
俺の中で怒りにヒビが入った。
「楽しいが、何か?」
「誰かと遊ぶのが楽しいじゃん。そりゃ、一人の時間も大事だけどさ。休日だぞ! アフターファイブじゃできない事しないと」
「俺はこれで十分楽しいんだ!」
苦手な相手だ。俺とは真逆な考えだ。しかもそれを他人にも押し付ける。そうやって、俺を否定するんだ。
睨み付けた俺をまじまじと見て、だが明家はニッと笑った。
「教えるから、もっかいやろうぜ」
「なんで!」
「できないままは悔しいだろ? 一度くらい俺に勝てよ」
ニッと笑った明家は、俺の言葉を全無視してコントローラーの説明やら、キャラの説明やらを始める。そして何度も、バカみたいに何度も同じコースを走るのだ。
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