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少し乱暴にグラスを掴んだ俺は、そのまま一気に飲み干す。余計な事は考えず、今ある俺の気持ちだけを優先した。
一気に飲み干し、グラスを置いた俺を明家は驚いた顔で拍手する。その顔は、俺のこの行動に驚いているようで、同時に受け入れられる事にも驚いているようだった。
「そんなに意外か」
「物凄く。だって、あんたノーマルでしょ」
「べつに、今まで付き合っていた相手がたまたま女ばかりだっただけだ」
「いや、この敷居けっこうあるよ」
明家は少し焦った顔をしているが、俺はいたって冷静だ。覚悟が決まればなんてことはない。
「…秤にかけたんだ。お前を受け入れて一緒にいる時間と、お前を無くして一人に戻る時間を。俺はもう、一人の時間に戻りたくない」
楽しかった時間が枷になるだろう。それは、加賀地の時とは比べ物にならない喪失感だ。それに俺が耐えられるとは思えない。
不意に、暖かな手が頬に触れた。そこからはゆっくりと、明家が近づいてくる。触れた唇は、案外簡単に受け入れられた。嫌悪とか、動揺はない。とても静かな気持ちで、彼を受け入れられる。
「あれ、逃げないね」
「逃げたらどうするつもりだったんだ」
「そんなに傷ついたりはしないさ。リスクは承知済みだし、無理することもないしな。手に入れたなら、後はゆっくりと段階踏めばいいだろ?」
「ほぉ、ゆっくりでいいんだ」
俺が薄く笑ったのに、明家の方が驚く。まじまじと俺を見る、こいつのこんな顔は初めて見た。驚きすぎて、どうしたらいいか分からないという顔だ。
俺はまずます楽しくなって、ニッと笑う。今日はこいつに散々振り回されたから、今度は俺の番だと言わんばかりだ。
「あの…。え? それってどういう風に取ればいいんだ?」
「お前しだいなんじゃないのか?」
まじまじと俺の顔を見た明家の表情が、徐々に落ち着いてくる。
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