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 偏見など持たない人だ。学力や、見た目で相手を判断しない人だ。誠実で、優しくて、穏やかな人だ。どんな相手にも、誠意を見せる人だ。  そんな人だから、俺はこの人についていこうと思ったんだ。  決してここまで平坦な会社ではない。小さくて、知名度もなくて、コツコツと、でも確実に積み上げるように進めていった。少しずつ会社も大きくなって、大きな仕事を任されるようになって、やりがいが出てきて、今にいたる。ここまでこれたのは、加賀地の人柄だって大きい。彼を信頼して仕事を任せる人は今も多い。 『佑?』 『おめでとうございます。俺は、応援しますので』  言って、俺は必死に笑顔を作った。  失恋を、知った。  誰かを、しかも男を愛していた事に戸惑うよりも、胸の痛みに息ができない事に驚いた。  今まで恋愛だと思っていたのは、なんだったのか?  こんなに痛い思いをしたことはない。  その日、俺は社会人になって初めて早退した。俺の顔色が朝から優れない事を、加賀地が心配したのだ。  『少し前まで忙しかったから、今になって疲れが出たんだろう。数日、休んで構わなよ。有給も、溜まってるだろ?』  加賀地の気遣いに、俺は従った。正直このままなんでもなく仕事ができるとは思えなかった。こんな上の空で仕事をしてはミスに繋がる。それを思えば、大人しく数日休むのが適当に思えた。  …いや、これも言い訳だ。実際は、顔を合わせていられなかったのだ。  家に帰って、疲れ切ってスーツのままベッドに転がる。顔を手で覆って、俺は壊れたみたいに乾いた笑い声で笑っていた。  どこの生娘だ、こんなことで仕事が手につかないなんて。バカも休み休み言え。  とんだ体たらくに、自己嫌悪に陥る。俺はこういう事が許せなかっただろ。仕事にプライベートを持ち込み、コンディションを保てないのは社会人として未熟だと、言っていたのはどこの誰だ。
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