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 立とうとした瞬間、足が地面についていないような感覚があって、世界が歪んだ。 「鳥潟様!」  スツールから落ちそうになった俺を、牧山が慌てて支えて座りなおさせてくれる。俺はそこから、一歩も動けなかった。ただカウンターに突っ伏して、吐き気に耐えるばかりだ。  正直、牧山は焦っていただろう。誰かに助けを求めようとしていたのかもしれない。ポケットから携帯を出すのが見えて、俺は焦った。彼が連絡を取ろうとする相手は、想像できた。  俺が焦ってそれを止めようと体を起こした、その時だ。涼やかなドアベルの音が店内に響いて、一人の男が入ってきた。 「一秀、久しぶり! って…どした?」 「明家さん!」  途端、牧山の雰囲気が軽くなったのが伝わった。『助かった』という感じだろう。  入ってきた男は、若干チャラそうな男だった。年は同じくらいに見える。それなりに身綺麗にしているが、空気が軽い。 「そのお客さん、潰れちゃったの?」 「少し傍にいてください。俺はタクシー呼びますから」  そう言って、慌ただしくカウンターの中に入っていった牧山をぼんやり見送った後、俺は隣にきた男を睨み付けた。 「ありゃ、なんかお気に召さない感じかな?」  虫の居所が悪いんだ。  男は一度俺を上から下まで見て、ニッと笑った。そして何を思ったか、俺の脇を抱えて立たせた。  途端、世界が歪んで我慢していた吐き気が限界を超えそうになる。慌てた俺はパニックになりそうだった。酒の席で失敗なんてしたことがない。これが今までの人生で初めての醜態だ。  だが男は素早く、傍のトイレに俺を連れて行って、背中をさする。屈辱だが、どうにも止めようがなかった。  そうしてしばらく時間が経って、俺はどうにか立ち上がる事に成功した。正直具合は最悪だが、よろけながらでも歩ける事に安心もした。
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