第1章

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 正明少年の抱いていた「将来の夢」は、プロ野球選手だった。ガキの頃は野球が大好きで、親父に勧められて始めたはずだったんだが、気づけば夢中になって白球を追いかけていた。ただ、そんな俺が「夢」を語るには、一つだけ問題があった。同年代のヤツらと比べて、一回りほど体格の小さかった俺が、そのデカすぎる「夢」を語ると、たちまち笑いが起きて、よく泣かされていた。しまいには、カーチャンにまで笑われて…結構ショックだったんだよなぁ。結局、その事が尾を引いちまって、無駄に意地を張ることなく、すぐにやめてしまった…。ちなみになんだが、今の俺の身長は、185cmだったりする。けっこうデカい。中学から高校にかけて一気に背が伸びたんだよなぁ、これが。あのときは野球をやめて5年ほど経っていただけに、そのブランクを埋めようとも思わなかった。もしも今、何らかの奇跡でも起こって、あの頃へと戻れるのなら、俺はきっと、いじけてる自分をブン殴ってでも、野球を続けさせていたと思う。「未来の俺を見てみろ! めちゃくちゃデカいだろ? 未来の俺は理由あって、ちょっと姿勢が悪くなっちまってるけど、本当は、ピンと背筋伸ばしたら、もっとデカいんだぞ!」って。…まあ、プロへの道はだいぶ険しいが、諦めるよりはずっとマシだろうよ。未来の自分が、そう言っているんだから間違いない。  いや…。  どうせなら「未来の情けない俺を見てみろ…。こんな男には絶対になりたくないだろ? だから、とにかく頑張れよ…」って言った方がマシなのかもな…。  そう、現在の俺は、同じように繰り返される日々を、ただただ無気力に過ごしていた。まあまあ楽しかった高校生活は終わりを迎え、職に就いてからの日々に、得られるものなどなにもなく7年を過ごしてしまった。こうして、残りの人生もまた、粗末にしてしまうのだろうか…。  ふと、考えてしまう。  やりたくない仕事をするだけでなく、体に鞭打ってまで退屈な日々を過ごすことに、意味なんてあるのだろうか…と。俺が生きている意味って…?  そう考えてしまうたびに、車のハンドル操作を誤りそうになる」    大型トラックがクラクションを鳴らしている。 正明(M)「人生やり直したい。  子供の頃に戻って、いっぱい努力したい、頑張りたい。  この先に、明るい未来なんてありゃしない。退屈な日々を過ごして、人知れず消えていくだけ。
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