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「ああん」
地団駄を踏んで口惜しがるチビッ子はまんま子供だ。
「サクラたん、もう一発たのんまつ」
ウメノが声を掛ける。
サクラの援護を考えに入れて、すでにバグに対して大きな円弧を描くように走り出している。
ホットブレスは
というか
火焔系の魔法は単発でないものが多いんだ。
また炎はやはり見た目の効果も派手で、目くらましとか威嚇にはもってこい。
援護を行うのにこれほど適した魔法もないわけで、魔術士の間では、サンセットオレンジのような極端に強力なヤツは除いてだけど、わりに火焔魔法=援護用という認識がある。
「こんどこそ……えい!」
やる気があるのかと訊かれれば、それなりにはあるのだろうが
「ああん、くやしい。こんどこそ」
サクラの放つ火球は全てがすでにチェルベロのいないところばかりに飛んでいく。
これじゃ援護にすらならねえ。
仕方ない。
溜め息をひとつ吐いてからオレは呪文の詠唱にかかる。
「『緋蜥蜴の熱き吐息よ 我の敵を焼かん
――ホット ブレス』
インヴォーク!!」
通信費を払うわけだから、残高は減るのが普通なのだが、オーバーラッピング仮想モニターに表示されている、頭に▼のついた数字はくるくると増えていく。
そりゃそうだ。
これは残高じゃなくて借金が増えていってるんだからな。
オレはできるだけその数字を見ないようにしながら、ダウンロードした魔式へと意識を向ける。
魔式がぼっと燃え上がると
鋭い眼光の蜥蜴がのっそりと姿を現す。
どことなく、だけどサクラが呼び出したヤツよりもふてぶてしい感じがする。
「いけっ」
ごう――
魔法は思念で操るため、別にかけ声を上げる必要もないのだが、オレは何となく標的を指さしてそう言う。
蜥蜴が吐き出した火を見て、チェルベロが地を蹴って跳躍する。
オレの放った火も敵には当たらずに地面を打つ。
「おみゃーも同じじゃないでつか」
「いいんだよ。サクラ、妖精いけるか?」
「え? あ、うん」
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