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「あ、あのッ、そ、その……」
「…………はい」訝しげなキミの、凛と響く声。
僕の声は、そんなキミの声に力なく消沈していく。フラフラと覚束なくなっていく僕の足取りは、まさに空中に吊られた男のようで情けないったらありゃしない。僕は今まさに、この街で唯一無二の歩く死体だ。
「……どうかしたのですか? わたしに何か用ですか?」
キミの大きな黒い瞳は死神の眼だ。その透き通るようなキレイな眼差しでじっと見つめられただけで、ボクの命は無慈悲に刈り取られてしまう。
だから、死に際のボクの些細な節制なんて意味がない、理性ならついさっき一撃で弾け飛んでいった。今なら、至近距離でマシンガンを撃たれて脳漿炸裂だ。
僕の耳元で天使と悪魔が楽しそうに囁いている、『さあ、貴方は今いくべきです、反撃開始なのです!』『さっさといっちまえ、いつまでも殺られっぱなしでイイのかよ!』って。……おい、それ、どっちも変わんなくないか?
「あ、え、えっと、きょ、今日は暑いですね!?」
バカみたいに高い塔から飛び降りたくらいにはやけっぱちだったのに、僕の口から出てきたのは、こんなにも下らない言葉だけだった。
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