故に、僕は恋に殺された敗残兵だ。

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「ごめんなさい、突然声を掛けてしまって。だけど、僕にはキミに声を掛けなければいけなかった理由があったんです」 「理由? なんですか、それ?」 「僕の魂が……、あ、いや、僕もこんなのは信じちゃいないんですけどね、あ、えっと、魂です、スピリチュアルな現象が、僕とキミを引き寄せた、そうとしか思えなかったんです! つ、つまり……」 「つまり?」  そうして、キミはもう一度首を傾げた。ナンパにしても霊感商法にしてもちょっとぎこちないキミと僕との、この距離感が実は結構嫌いじゃない。まあ、射程距離なら完全に圏外ではある。  自分が吐いた小さな深呼吸が、やたらと大きく聞こえる。  止まったはずの心臓が大爆音で鳴り響く。  背中を伝う汗は今年の夏の猛暑のせいにした。  真っ直ぐに見つめたキミはやっぱりキレイだ。 「一目惚れです、完全に心臓を撃ち抜かれました。ここでキミと話せなければ、僕はキミのあまりにも精密な遠距離狙撃で無惨にのたれ死んでいました、無駄死には嫌だったんです」  こうして、僕の儚い恋は終わりを告げる。……最初から始まってはいなかったんだけど。
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