虹の彼方へ

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あの人は今頃、虹の向こうで何をしているだろう。 雨上がりの多摩川の河川敷。 僕は息子を肩車しながら水色の空を見上げ、ぼんやりと懐かしい記憶に思いを馳せた。 僕が息子と同じ、小学3年生の頃。 母親と二人暮らしの公営団地には、毎日、紙芝居のおっちゃんが来ていた。 午後4時。 敷地内にある公園から聞こえてくる古めかしい洋楽が、来訪を告げる合図。 僕らはランドセルを玄関に放り投げると、小銭を握りしめて、そこへ向かった。 「おっちゃん、ダーツ、5回ね!」 ぬるまった100円玉を差し出せば、目深に被った毛玉だらけのニット帽が二度頷く。 ベニヤ板にペンキで描かれた、大小さまざまな丸。 友達が大きな数字の小さな的を狙う中、僕が狙うのはただ一つ。 矢印で"虹"と示された、ゴマ粒ほどの黒い点。 今まで誰一人、ここに針を命中させた者はいない。 5回中4回はそれを狙って、最後の1回だけ数字の丸を狙うのが、僕の常。 当てた点数1点を10円に換算して、駄菓子と交換してもらえる。 だから僕の持ち点は、いつも2点や3点が限界。
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