前章 ガブリエル

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   路地の先に広がる暗黒から、炎さえ凍える悪意が広がる。 「………!」  漆黒のワンピースをまとう少女は、手にした書物をぎゅっと抱き締めて、わずかに後ずさった。  冷気が、路地(せかい)を覆っている。  悪意が、暗闇(せかい)に潜んでいる。  少女はその整った顔に似つかわしくない睨むような表情(かお)をして暗闇を見詰めている。  瞬間、冷却の突風が少女を襲った。 「ッ―――!!」  それは嵐。極低温の殺意を孕む、罪罰への鉄槌。  無論、ただの冷風ではない。凍てつく風は徐々に少女の身体を蝕み、その身に宿る命を奪おうとして行く。 「焦、熱っ……来たれりっ……!!」  かろうじて少女が口に出した言語は、既に失われた古代の呪言。声は大気の霊素(マナ)を震わせ、意味は正しく事実となり、現実へと顕現して―――  
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