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真弓は飲み干しながら、
このような心境を以前味わったことがあったと……。
名古屋での、信夫と玉恵との出来事を苦く思い出していた。
(もぅあんな辛い思いはゴメンじゃかいね……)
それからの真弓は心持ち気強く、
そして少しお利口にもなったような気がしていた。
「ぅふふ……
いける口なんですわね、真弓さんは。
ところで、今日来られた……私に何か?」
志津子の数多(あまた)の人間関係から、真弓の心はすでに読まれていた。
「ふーーっ旨いがね。さぞ高いワインなんじゃろうね」
真弓っ、お前はそんなことを言ってる場合じゃねぇだろうが!
こらっ、グラスを差し出すな、意地汚い奴め。
「ああ……そうじゃった。
志津子さん、ちぃっと立ち入ったことを訊くけんど、
あの子は、絵一との子じゃっとですかっ?」
真弓は先手に出て、
眉間に皺を寄せながら訊ねていた。
志津子は穏やかな面持ちで、ワインの瓶を手にすると、
空いた真弓のグラスに静かに注いだ。
「ぅふふ……
だとしたらどうなさるのですか、真弓さんは?
真弓さん、あの子……画一はね、
私と絵一さんとが愛しあって授かり、
私がお腹を痛めて生まれてきた子なのょ」
「えっ、あああっ……」
志津子はそんな真弓の表情を、
上目でチラリと拝見しながら、自分のグラスにも注いだ。
真弓は、あまりにもストレートな応えに言葉を失ってしまい、
その代わりに注がれたワインを慌てて呷った。
志津子は、そのような真弓を見入りながら、
「ぅふふ……
真弓さんは、絵一さんを愛しているのですね。
そうして、絵一さんからも愛されているのですね……」
と、嫌味を添えて付け加えたのだった。
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