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一瞬ぽかんと口を開けた。
次の瞬間、あははっと吹き出した。
やってしまった、と思ったけど、笑うくらいしか対処方法が思いつかなかった。
「なんだ紫苑か!久しぶりに見たから間違えちゃったよ。」
紫苑は特に怒るでも呆れるでもなく、ただ冷めた目で私を見下ろしていた。
ああ、そうだよ。
なんで間違えたんだろ、私。
これは、紫苑の目だ。
安藤紫苑(あんどう しおん)。
楓の双子の弟。
仲が良くなかったわけじゃない。
小さい頃は、楓と紫苑と三人でよく遊んだ。
家が近所だったから、私が2人の家に遊びに行くこともしょっちゅうだった。
それでも、初めに紫苑の事を思い出せなかったのは、楓が私にとって、特別な人だから。
初恋の人。
でもなぜか楓の事だって、ずっと忘れていた。
今日紫苑を見て突然思い出したくらいだもん。
その彼の弟の事まで思い出せなかったって、不思議じゃない。
「げ、元気にしてた?」
「うん。」
「そっか。」
会話が続かない…。
「か…楓は?違うクラス?」
さっき間違えてしまった罰の悪さから、恐る恐る尋ねる。
「…あいつは、この学校じゃない。」
「あ…、そうなんだ。」
自分でも分かる、明らかに落胆した声。
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