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「……」
さて、ここからが問題である。
捨て子に出会った時の最善の手を知らない僕としては何をどうすればこの子は幸せに暮らす事が出来るのかが分からない。だから僕は捨て子に出会った事を忘れて妹として姫ちゃんを見ていた結果、変質者として誘拐しかけたのである。いや、別に誘拐する気は微塵もなかったよ。本当だよ。
「……ねぇ姫ちゃん、お家どこか分かるかな?」
首を傾げる姫ちゃん。どうやら分からない様子。
「姫、分からない。ねぇ、お兄ちゃん。ママ、どこ?」
キョロキョロと周囲を見渡す姫ちゃん。勿論、姫ちゃんのお母さんの姿はない。
この時、ようやくというか僕のせいで忘れていた事実を姫ちゃんが気づいた。
現実は時に過酷である。
寝て起きたら知らないお兄ちゃんがいて、代わりに母親の姿がなかったらどうだろうか?
それは考えただけでもぞっとする。
不安と絶望。誘拐されたか親に捨てられたか二つの考えが交差する。前者であれば希望があるが、後者であれば希望は少ない。今回の場合は勿論、希望の少ない後者である。
「……ねぇ、お兄ちゃん……ママはどこにいるの?」
「……」
そんな事、僕には分からない。
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