A Pacifist

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───── 「ちょ、ちょっと!待ちなさいよネロ!」  A.G.C.がキャンプを張る、ネザーリン近郊の地区において、その変化は急激に生じていた。 「止めないで!助けに行かないと!」  夜の荒野に冷たい風が吹き抜け、月は高く宙空に掲げられた頃。ネザーリンが俄かに騒ぎ始めた頃。潜入者の行動に合わせるように、一人のパイロットは自分のACに向かっていた。止めようとする少女を差し置き、命令すらも待たず、強引に彼女は足を進めていた。 「落ち着いてって!今勝手な行動はマズいよ!」  必死でガイアは止めに入り、何度も説得を続け、その手を引っ張るようにしてネロの足を無理やり止めさせる。ガイア、即ち疑いようもない子供に必死で引き留められている、大人のネロ。奇妙な光景だが、それを端から眺める者は居ない。彼女は密かに出撃しようとし、気付いたのはガイアだけだったのだ。 「後から何とでもする!アイツがヤバいんだって!」 「だからそういう事言ってる場合じゃ……あーもー!誰か止めてよ!」  全く聞く気の無いネロを制止すべく、声の限りにガイアは叫ぶ。だが夜の静寂の中だと言うのに、誰にも聞こえていないのか、反応は返ってこない。  いよいよネロはガイアを振り解こうと、組まれた腕を力強く払った。それでもガイアは食らいつき、ネロに縋るように組み直す。単に友の無断出撃を食い止めたい以上の意思が、そこには感じられた。 「俺が許可を出そう」  その時、誰も居ないと思われた空間に、幽鬼の如く、低い声が響いた。思わずネロとガイアは声のした方へと振り向き、現れた男に視線を向ける。見知らぬ存在というわけではない。A.G.C.が“特別”なパイロットの一人だ。 「貴方は……」  だがその名を呼ぼうとした瞬間、ガイアは圧倒されてしまった。夜中とは言え、その装束はどこまでも暗い黒さを帯びており、それなりの立場を持つ人間とは思えぬほど、雰囲気は荒んでいてどことなく諦観の念が感じられる。 「“奴”には、俺も会いたいと思っていたところだ」  彼はそう呟くと、ゆっくりとネロに追従するように歩き出す。その目の先には似たシルエットを持つ、紫と黒のACがあった。 「(何よ、この感覚……これは……)」  味方とは思えぬ殺気を彼から感じ、ガイアは脳内である人物を思い浮かべた。渦中にある、かの人物だった。
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