Mercenaries

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『……失礼、答えるまでもない質問だったな。そう、空が緑色なのは《バイタル・グランス》が惑星を覆っているからだ』  ネバルが呆気に取られたのを見て取ってか、アーサーはそのまま続けた。そう言いながら、彼のACの頭部はまるで空を仰ぐように上に向けられる。そこには平生と変わらぬ、緑色の空が広がっていた。  “バイタル・グランス(生命の輝き)”とは、この世界に充満する空気のようなもので、その名の通り、生命の維持に疑いようもなく必要なものである。あらゆる生物はこれを取り込まねば、あたかも酸素が身体に適量なだけ必須なように、濃度がわずかに薄くても濃くても極めて有害な影響を被る。色は淡い薄緑を帯び、大気中に広く拡散しているため、地上からは空が緑色に見えるのである。  しかしこれは、単純に“物質”としてカテゴライズされるべきではない事が、戦前の研究により分かっている。高濃度の場所ではまるで粒子のように輝くのだが、既存の素粒子物理学ではその構造を説明しきれず、大破壊前の文明最盛期に於いては、また違った学門として成立するほどだった。ある学者に言わせれば、『実物的要素と霊的要素の中間に位置するものだ』とのことであるが、当然の如く眉唾物の説として退けられている。だがそのような意見が出るほどに、ごく当たり前に存在しながら解明しきれない、それがバイタル・グランスなのである。  だが何故、そのような分かりきった話をするのか。ネバルは引き続き怪訝な顔を浮かべていたが、彼のACはゆっくりと顔を下ろし、二つの縦並びの瞳で《DJ》と目を合わす。ここからが本題だ、とでも言いたげな視線だった。 『……しかし学者によれば、世界の空は青色でもおかしくは無いそうだ。光の波長には長短があって、太陽光線の中でも短い、青い光が大気中に拡散するのだ。これをレイリー散乱というらしい。そこで次の質問だが……君は“青い空”についてどう思う?』 「……何だと?」  その質問の直後、ネバルの表情に変化が生じた。双眼は更に鋭さを増すが、同時に唇は横に開き、顎の力が強まる。怒りの色と、動揺、焦りの色が同時に浮かびだしたのだ。 『そうだ。察しの通り、我々は君が“彼等”の生き残りだと承知した上で接触している。風の噂には聞いていたが……まさか本当に会えるとは思わなかった。尤も、これは互いにとって有益な話だということを念頭に置いて欲しい』
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