Mercenaries

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「……!」  避けたはいいが、《DJ》はそのまま倒れるようにバランスを崩す。だが、ネバルの右手は流れるように操縦桿を傾けていた。無茶な操作で猛烈なGを受けながらも、彼女は歯を食いしばり、そこでトリガーを引いた。  直後、倒れかかった《DJ》はブースタの起動に合わせ、真下に向かってショットガンを放っていた。その反動で《DJ》のボディは噴射炎と共に起き上がり、そのまま地面を蹴った。  角度をつけて低く跳躍した焦げ色のACは、呆気にとられる《プラトゥーン》の頭上を飛び越え、何事もなかったように着地した。三機を視界内に捉え、漸くネバルに逃げる隙が生まれる。ひび割れた大地を滑るように、回復した電力で必死の加速を試みていた。 「っはぁ!?すっげぇ~~!!面白い事やるじゃねえか!」 「……ほう……」  その動作を見て、思わずキルゴアは感嘆の言葉を漏らしていた。気色にも高揚感をたっぷり浮かべ、ネバルの追跡にかかる。同じくローレンツも、口調は穏やかながらも追撃の構えを見せ、逆関節の脚部をしならせるようにして跳躍した。狭隘な地形に向かってゆく《DJ》を空中から追い、地上と両方から黒い影が走る。 「よ……避けやがった……!?お、おい!“メアリー”!」  しかし、一歩遅れて機体を旋回させたもう一人の傭兵、メアリー・ルイスだけは、動揺を隠せていなかった。どこか年齢不相応な幼さと怯えを孕んだ顔を引きつらせ、彼女は上擦った声を上げる。 「ど、どうなってんだ!?や、奴のケツの穴をおっ広げてやる筈だったのに……避けた!?避けた!?なんで!?」 『落ち着きなさい、“メアリー”。まだ焦るような状況じゃないわ』  ますます動転する彼女をよそに、スピーカーからは穏やかな声が聞こえてきた。彼女よりも遥かに落ち着いて感じられる女性の声であり、そして“メアリー”と呼ばれた女性である。 『所詮は小細工、長続きはしないわ。それよりも、次のチャンスをじっくりと待って、それに賭けなさい。大丈夫よ……貴女なら出来るわ、メアリー』 「そ、そうか……分かったぜメアリー!頑張ってみるよ!」  どこか奇妙なやり取りの後、気勢を持ち直したメアリーは《プラトゥーン》を加速させる。先行する二機に続くように、高速型タンクと言うべき《L08 Foolish》のブースタが唸り、重装戦車とは思えぬ速度と不気味な威圧感と共に大地を滑空する。
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