V for two

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 しかし、そこもまた、既に生き地獄と形容すべき場所へと変容していた。炎、炎、炎。彼が見た物は、ただそれだけだった。先程よりもなお赤く、よりけたたましく爆音が鳴り響くその場所に、彼は一時立ち尽くす。  その目に映る、彼のかつての居場所は既に炎の下だった。余りにも徹底的にそこは焼き尽くされ、ひとかけの残骸も原型も残す気は無いらしい。  なお彼の目は、残酷な現実をありのままに映す。燃え盛る火柱と反対方向、平地に戦列を並べている巨大な鉄の塊が見える。MT(Manipulated Trooper)と呼称される汎用兵器の一つ、重装型機(GOLEM)だ。  その両腕にあたる部位には、標準装備の機関砲や防盾ではなく、火炎放射器が装備されていた。それも全機にである。燃料を高圧で噴射し、建物全体に文字通りの炎のシャワーを降り注がせていた。  そのような凄惨な光景を、彼はただ見つめていた。絶望に崩れ落ちる事も、そこから逃げ去る事も、狂気に走る事もない。或いは全てを超越していたのかも知れない。いずれにせよ、彼はそこに留まり、目の前の現実を受け止めていた。そして、これから先の近い将来も、である。  彼はそこから、更に一歩を踏み出し、あえて地獄に向かって進んでいった。目を凝らさずとも、互いの姿がよく見える程度の距離だ。その熱波は凄まじいが、彼の歩く様に気後れは感じられない。雄々しく勇壮に、その姿は徐々に悪魔の元へと晒されていく。  その時、彼の両の瞳がある機体を捉えた。周りのずんぐりとした形状の《GOLEM》とは全く違う。それは紛れもなく、二脚型の“AC”であった。全身の塗装は血のように赤く暗く、炎の輝きを受けてもなお異様などす黒さを放っている。  ああ、畜生め。  その赤いACの“目”が彼の目と向き合った時、彼は心中で罵詈を呟いた。覚悟は決まったが、視線のその先、そう遠くない場所に居る悪魔の親玉に対して、募る思いは未だ甚だしく残っている。  しかしそれでも、彼の表情から忌々しさは感じられなかった。一方のかの悪魔は彼を見つけるや否や、右腕に装備した巨大な銃を持ち上げている。その銃口に、炎とは違う眩い光が収束し始める。銃身内部でレーザーが生成され、超高温の輝きが空気中に散乱しているのだ。そして彼の顔には、薄い笑みが浮かべられていた。
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