第5章

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   「何かあると思ってはいたが……」 そう言って、社長が黙り込む。 会社の雰囲気が悪くなっていたことに、社長も気がついていたようだ。 ……そうだよね。 気付かないわけがない。 「自分が蒔いた種ですから……」 「だからと言って、必要以上に亜矢を傷つけることは赦せない」 社長がギリッと唇を噛む。 わたしのことで社長に嫌な思いをさせている。 その事実が、申し訳なくて。 そして、少しでも安心させたくて、社長に笑顔を作ってみせる。 「わたしは、大丈夫」 「そう言って、亜矢はいつも無理をする」 社長がわたしの頭をクシャッと撫でる。 その掌の感覚が心地好くて、込み上げてくる感情を抑えるように目を閉じる。 だけど……。 やっぱりダメ。 「甘やかさないで……」 泣き顔を見せたくなくて、社長の胸に顔をギュッと押し付けた。
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