第1章

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    「は?」 まじまじと伊原の顔を見詰めた。 「食事に行かない?」 「それは仕事でしょうか?」 「シェフを口説きたくてね。その下見に。一人じゃ怪しいだろう?」 「残業手当を頂けるならお供します」 そう言うと伊原は「決まりだな」と一度微笑んで、パソコンの電源を落とした。 伊原とイタリアンレストランに来てはみたものの、本当に下見なのか疑問だった。 何故ならこのレストランのシェフは一人きり。 口説くと言うことは店を閉めると言うことだ。 こじんまりとしていて、そこそこ流行っている店を閉めるなんて考えられない。 「社長、嘘つきましたね」 「あ、バレた? これ、ワインリスト。好きなの選んで」 伊原は極上の笑みを浮かべて、わたしにワインリストを手渡した。
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