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そんな焦りを置いてけぼりにして、三沢女史はデスクに備え付けられた一番深い引き出しを開け、何かを取り出した。
「体、冷やすとよくないわよ」
何故ガウンを? その疑問が伝わったのだろう。鮮やかに笑んだ。
「特価品だったのよ! 三枚も買っちゃった!」
だからって男物、買いますか?
「お借りします」
「あ・げ・る」
「いいんですか?」
驚き、尋ねると三沢女史はゆっくりと頷く。
「試合、見に行けなかったから」
胸ズキュンッ!
「だって、それは……仕方ないっすよ」
三沢女史が医務室からいなくなったら、何かあった時に困る。
「わかってるわよ。私も結衣(ゆい)も決められた場所から動かないから、安心して」
「結衣? ああ、佐原(さはら)ですか?」
交換室にいる同期を思い浮かべる。確かに彼女が職務を放棄したら、館内アナウンスやBGMの管理、問い合わせの電話の対応は誰がするのか。
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