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控え目なノックの音が届いた。壁にかけられた時計を見上げれば19時30分。
防音床に吸い込まれるスリッパの音。今日でお役御免だ。
「ども」
「お疲れ様です」
脇に折り畳んだダンボールを挟みながら現れたのは、この交換室のメンテナンスを長年担当してくれている取引先さんだった。
「あれ？ 佐原さん、一人ですか？」
「早番さんは屋上庭園で最後の盛り上げに」
「成程」
本格的な機材の撤去などは明日以降になる。彼はその前にリストアップに来たいと連絡をくれたのだ。
「じゃあ、御邪魔しますね」
にっこりスマイル。
「お願いします」
そう告げ、頭を下げかけた時、外線が鳴った。
どうぞと、目だけで促される。慌てて席に座り、ヘッドセットを装着すると手元の切替スイッチを押した。
「お電話ありがとうございます。本日閉店を迎えます陸奥屋百貨店でございます」
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