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完全閉店した店内は閑散としている。皆、屋上での打ち上げに向かったのだろう。
「店長……」
「いけないよ、莉乃(りの)君」
私は年甲斐もなく狼狽した。
『パティシエになりたい』
小学生の女の子が将来なりたい職業、ベストスリーに入る人気職種。そんな発言をした私を当時の上司は驚いた顔で、まじまじと見た。
「日下部(くさかべ)君、本気なのかい?」
「はい」
さっと出したのは白地に退職願と達筆で書いた封筒。自慢ではないが書道八段だ。しばしの沈黙の後。
「気持ちは変わらないんだね?」
「今まで御世話になりました」
入社した時から何かと目にかけてくれていた上司は、ありがたい事に残念そうにため息をつき、次いで優しく笑む。
「応援しているよ。頑張りなさい」
最後は、そっと背中を押してくれた。
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