御注文はあなた

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 その後、製菓学校を経て、ある会社に採用してもらえた。  実務経験を積みながら製菓衛生士の資格を取得し、百貨店への出店に伴い、店長を任された。 「雅人(まさと)が、パティシエ……くくっ!」 「買わないのなら帰れ」  母方の従兄弟にあたる島尾智也(しまお・ともや)を無表情であしらう。 「うわっ! 感じ、わるっ!」 「営業妨害だ」  閉店間際に、こいつは何をしに来たのか? いや、ここ陸奥屋自体が今日を持って営業終了なのだが。 「飲みになら行けないぞ」 「わかってるって。今夜は無礼講なんでしょ」  そう言うと、左腕にある腕時計をちらりと智也は見る。 「そろそろ行くよ」 「ああ」  折り畳まれたダンボールを左脇に挟むと、重たそうな鞄を手に智也は踵を返す。 「おっ、莉乃ちゃん。今日も可愛いね」 「いらっしゃいませ、島尾さん。ありがとうございました」  歓迎と送迎を同時に行い、少女はにっこり笑った。
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