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この店に三年間アルバイトとして通ってくれた田中莉乃と目が合う。
「莉乃君、すまない。最後の日まで無理を言って」
「いいんです。私が入りたくて、今日のシフトに入れていただいたんですから」
莉乃君にそう言ってもらえると、正直救われる。
この百貨店の閉店が決まった時、上は速やかに人員整理を行った。
『最後の御奉仕だと思って頑張ってくれないか?』
次の勤務先を打診された時、自分は独立の意志を伝えた。
辞める人間に情けはかけなくてよいと判断されたのだろう。
「店長こそ十日連続出勤ですよね? 大丈夫なんですか?」
莉乃君が本当に心配そうに覗き込んでくれる。
陸奥屋に出店した時から働いてくれている女子高生は、今時にしては珍しいくらいに礼儀正しく真面目だった。
そして対応に困る程、愛らしい。
『その気持ちって、もう父親に近くない?』
智也にからかわれ、その時は何をと思ったが、あながち間違いではないのかもしれない。
今年40歳になる俺に18歳の娘がいたって、世間的には全然おかしくないのだから。
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