御注文はあなた

5/12
前へ
/14ページ
次へ
 艶々の黒髪を後ろで束ね、制服に身を包む。  社長の趣味とはいえ赤のワンピースに真っ白なフリルのエプロン、そして赤と白のボーダーのニーハイソックスに真っ黒なデコ靴。 『不思議の国のメイド服みたいで、私は好きです』  エプロン同様に真っ白なフリルのカチューシャは、確かに彼女に似合っていた。  実際莉乃を目当てにケーキを買いに来る客もいる。自分が席を外している時、連絡先を渡されたりした事もあるらしい。  敷地面積二坪もない小さな店。他のテナントと一緒に展開されている、いわばコーナー店舗。商品も出来上がったものが納入され、それを並べるだけ。  でも自分がやりたいのは、自分で作った物を訪れた人に食べてもらう事。そして美味しいと笑顔になってもらえたら、それだけで。だから、これを機に独立を決めたのだ。 「店長」 「はい」 「そろそろですね」  店内BGMが『蛍の光』になる。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加