御注文はあなた

7/12
前へ
/14ページ
次へ
「どどど……どうしましょう……」 「莉乃君。落ち着いて」  目に見えて明らかに動揺している少女に、冷静に話しかける。  長い付き合いから、わかってくれたのだろう。こくこくと頷くと、さくらんぼのごとき唇を開いた。 「御予約が一件、ありました……」  今日という日を迎えるにあたり、何度も確認した筈。私は莉乃君の差し出した予約票を受け取る。 「え?」  思わず洩らした呟き。 【御名前:田中莉乃】 【御注文内容:日下部雅人店長】 【特記事項:ずっと好きでした。私と付き合って下さい。】  ゆっくりと視線を上げれば心許ない灯りの下、うつむきながら莉乃君は告げる。 「御注文は……あなたです!」  数秒の沈黙。でも私には何分にも何十分にも感じられた無言の時。 『私には何時間にも感じられました!』  後から聞いたら、莉乃君。君はこう答えたね。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加