壱日目

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(ここが『かっこうの巣』か……) 見上げるようにそびえたつのは、真っ白い球状の建物。ここに来る前に幾度となく見上げた建物だったが、実際にこうやって間近で見るのは初めてだ。 白色を基調とした建物の周りには、それを覆うようにして無機質な色の檻が包み込む。確かに『檻』と『巣』とはよく喩えたもんだ。 空中要塞とも揶揄される刑場、『crimson cage』、その名前を知らないヤツはいない。 刑期が100年以上の凶悪犯罪者を収容する刑場の1つであり、日本(ヒノモト)の中で最も“自殺率が高い”場所。 その自殺率がこの施設の過酷さのせいなのか、それとも釈放も脱獄も不可能とされている現状を悲観してか、それは公にされていない。 ただ球状の施設から飛び降りて死んでいく様は、さながら托卵(たくらん)によって落とされる卵の如く、そういう意味を込めてここをそう呼ぶヤツは少なくない。 そんな血塗られた檻の中に、今自分の足で入ろうとしている。 「それでは中にどうぞ。私の傍から離れないでください」 『出られなくなってしまいますから』 その言葉に背中にひやりと冷たいものが走る。何故だろう、肉体的なものだけではない、見当もつかない何かに対して言われている。 そう感じながらもその正体がわからず、なるべく表情を変えないままうなずけば、張り付いた笑顔のまま目を細めてくる。 ゆっくりと、巣の中の入り口が開いた。
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