壱日目

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「よくやったな『御槃(みたらい)』」 屈強な男達の影から1人違う恰好をした男が顔を出す。 「あ!署長!見に来てくれたんスか」 「こら!署長にちゃんとした敬語を使え!!」 「はっはっ!お前が指導している奴らに敬語なんぞ期待してないわ」 剣道の面を外した男は、名前を呼んだスーツ姿の壮年の男にくだけた言葉を向けた若い男達に一喝したが、怒られた相手は、それもどこかうれしそうに眉根を下げる。 「署長!大護(だいご)先輩が優勝したら焼肉って話忘れてないっスよね」 「ったく、お前はそればっかだな」 「だって大護センパイが署長と約束取り付けたって…」 「女っ気より食いっ気ってか。“みたらしだんご”チームは」 「お前なぁ、それ気にしてんだから言うなよな」 「いいじゃないっすか、オレだんごチーム好きっすよ」 「そういう問題じゃないっつの」 同僚が茶化して言った言葉に高校生のような反応をしている男達と、それをたしなめるように眉根を下げる男はれっきとした成人で、れっきとした『警護官』だという事はここにいる全員が把握している。 何故ならばここがその警護官達が日頃の訓練を披露するために開かれている剣道大会で、その中で先程華麗な1本勝ちした男は、れっきとした『新塾署』にある花形部署、『犯罪対策課(犯対)』の警護官の1人なのだから。 「……」 そこから男達の様子が一望出来る場所に、おおよそ場の雰囲気にはそぐわない2つの人影が立つ。 「彼はどうですか?」 仲間に紛れて楽しそうに笑う男をいつからか監視していたかのように、抑揚のない口調が何かに対して問えば、その何かは何も言うことなく視線を下に向ける。
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