壱日目

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「若いですが、実力は先ほど見ていただいた通りです。“簡単に壊れない”と思いますが」 「壊れない…ね」 同じように抑揚のない口調が投げられたが、先程まで事務的な発言しかしなかった相手が、そこで初めて皮肉めいた発言をする男であったことが知らされる。 「あなたの管轄する“場所”にいる者達に比べれば、おもちゃのようなものだと受け取っても仕方ありません」 「……」 男は下で仲間に囲まれている男を無表情に見る。観察していると言った方が正しい。 剣道着の下に隠された筋肉を、骨格の組成を、ありとあらゆる外見から認識出来るもの全てを把握しようとする視線を感じたのか、男がふと辺りを見回している。 「あなたの殺気ではない視線にも気が付いたようですね」 「……」 試合中意図的に向けた暴力性を含んだ視線を投げかけたときは、それをこちらが意識的に向けようとする前に視線の出所を探す仕草が認められた。 そこから導き出されるのはいくつかの可能性であった。 「“素養”はあると思います」 「……ふむ」 肯定とも否定とも取れない反応であったが、相手が初めてわずかにも反応を示したことに、スーツ姿の男は目を細める。 「いかがでしょうか?」 「……」 男は最後に1度男を見た。若く、強く、そしてまだ組織の何にも染まっていない。 「『KING』に…お伺いを立ててみよう」 それだけを言い残し、男は背を向け、いつの間にか会場から姿を消していた。
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