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第一話
寒い冬の日。それでもまぶしくあたりに降り注いでいた陽の光りが、遥か彼方の地平線に隠れ、夜の帳がすべてを包み込む。
その闇を照らすように、一つだけ、優しい光りを放つものがあった。
それは、どこも欠けたところの見つからない、完璧な月。そう、満月だった。
少年は家路についていた。マフラーに手袋。防寒をしてもなお、冬の寒さは厳しくて、彼は白い息を吐きながら歩いている。
ふと、夜空を見上げてみると、そこには満月が一つ。
星は、一つも見えない。
星が一つもない空なんて久々だった。しかも、ないにもかかわらず、月だけはやけにくっきりと目に映る。満月を見つめながら、思わず感嘆のため息までついてしまった。
美しく柔らかな光りを放つそれは、静かで、どこか寂しさを醸し出す。誘われるような、どこか危なげな光り。
ふと月から視線をはずして、考えを切り替えるように頭を振ると、いつの間にか止めてしまっていた歩みを再開する。
実際少年は、どこかの帰りに、一人でこのように空を見上げるのが好きだった。
しんと静まり返った空間に、自分と月の二つのみ。そして、どこか違う時空へ行っているかのような既視感。
その不思議な感覚が好きだった。
朝起きたら学校へ行って、友達とつるんだり、塾へ行ったり。帰ってきたら宿題をやったりやらなかったり。
ただ同じようなことを繰り返すだけの日常から、まるで抜け出しているかのような、そんな時間。
少年はもう一度ため息をつくと、路地を抜けて、公園を通り過ぎようとした。この公園を抜けてすぐに少年の家があるのだ。
しかし、通り過ぎようとして、少年は躊躇した。
公園内では、どうやら取っ組み合いのけんかが繰り広げられているようで、二つの影がなにやら蠢いている。
余計なことに首は突っ込みたくない。
少年は内心、面倒くさいな…、と溜息をついた。
ならば公園を迂回して、家へ帰ればいい。
しかし、事はそれでは済まなかった。
なんと、そのまま黙って通り抜けられないような事態が起こっていたのだ。
少年は息を呑んだ。
あまりにも強烈過ぎて声が出ないほどに。今まで生きてきた中のどの場面を思い出してみても、それと当てはまるものは出てこなかった。
今までけんかだと思っていたそれは、まったくの勘違いで。けんかではなく、食事だったのだ。
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