第1章

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 その時、天井からなにかが落ちてきて、乾いた音を立てて床に転がった。 一瞬、誰もが武器に手をかけたが、落ちてきたものは天井から剥がれたであろう石のかけらだった。 足元に転がった石のかけらをみて皆が安堵し、肩の力を抜いたとき、急に最後尾にいた兵が悲鳴を上げた。 サエキははっとして他の兵に散開を命じ、銃を構える。 人の群れが割れ、視界が開けたとき、サエキは鋭い矢のように刺さる静かな殺気に戦慄する。 度々死線をくぐってきたサエキでさえ、総毛立つような恐怖を覚えた。  悲鳴を上げた兵は首にナイフを当てられ、地面に膝をつき、恐怖で体を震わせていた。 殺気は彼の体の後ろから一直線にサエキを射抜いており、殺気の主は大柄な兵士の後ろにすっかり隠れていた。 仲間を盾にされたサエキは銃を撃つこともできず、姿の見えない敵に問いかける。 「何者だ!」 答えは返ってこない。 サエキは一歩ずつ近づきながら、敵の姿を見るべく目を凝らした。  残り7メートルという距離で、サエキはようやく敵の姿をとらえる。 それは痩せ細った少女だった。 ひどく栄養状態が悪いのは見て取れたが、手足にはうっすらとバランスよく筋肉がつき、無駄のない肉体は野生動物のようだ。 少女は鎖の千切れた足枷をそのままに、ぎらつく目で猛禽類のように素早く辺りを見る。 「お前がこの監獄を破壊したっていう子供だな。どこから来た?」 サエキの問いに、少女は答える。 「ここ、ずっと、いる。」 たどたどしい言葉は、他の言語の習得者故に話せないというより、むしろ、言葉自体をほとんど学んだことがないためにぎこちないという印象を受けたサエキはさらに少女に言う。 「名前を言え。」 少女はナイフを持っていないほうの手の甲を見せた。 そこにあったのは「FG002」という刺青だった。 これを見た瞬間、サエキは真っ青な顔をして兵に命じた。 「お前たち今すぐここをでろ!!」 「え、え?し、しかし……。」 戸惑う兵に、サエキは声をあらげる。 「いいからすぐにでろ!!今すぐにだ!!」 あまりの剣幕に気圧された兵たちは慌てて洞窟の入り口に向かって駆け出した。
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