大富豪と世界遺産を巡る

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「…はい。南側にある石造りのファサードとイエズス会士の地下納骨堂から成り立っており、ファザードはイタリア人のイエズス会士カルロ・スピノラのもとで、本国から追放された日本人キリスト教徒と現地の職人によって、1620年から1627年の間に複雑に彫刻された事で有名…です」 私は最初の説明より、少し挙動不審になっていた。 西暦2010年の3月。私は世界的大富豪であるジュリアラン・ホフテリウスの秘書兼護衛の見習いとして、彼の世界旅行に同行していた。彼は大富豪であるが今は家督を息子に譲り、隠居生活の身。”今回”運が良かった私は、”情報保存のハードディスク”のログイン相手である彼とすぐに出会い、己の使命である”その時代で得られる知識・経験を記憶する”事ができているのだ。 『…それにしても、私とあんたが”はるか先の未来から来た”なんてのを、このおっさんはよく信じてくれたわよね』 すると、頭の中に甲高い女の子の声が響く。  サティア…世界的大富豪をおっさん呼ばわりしちゃ駄目でしょ! 私は聞こえてきた声に対し、心の中でそう呟く。 首筋に取り付けてある端末・ヴィンクラには人口知能であるサペンティアム…通称サティアが内包されている。AIに性別はあまりないのだろうが、一人称が”あたし”か”私”なので、女の子であると考えられる。そんなサティアが言うとおり、私と彼女はこの2010年の人間ではない。ジュリアランさんが言うようにれっきとした日本人だが、私の故郷はこの時代より遥か未来――――――――――――――西暦2608年の日本である。  クリスさんが持っているあの端末…この時代辺り日本で言われていた”柄ケー”なる携帯電話なのかな? 私は昔の通信端末である”柄ケー”なる物を使って会話をするクリスさんを見て、そんな事を考えていた。 そんな遥か未来から来ているため、私が生まれた2500年?2600年辺りの日本は、度重なる戦争や天災の被害に遭いつつも科学の進歩を遂げて、ついには時間を遡る―――――いわゆる、タイムスリップができる機械が発明されるほど科学が進んでいた。ただし、私が身につけている腕時計型の”時空探索超越機”はまともに買うとすごい額なので、まだ市場には流通していない。 そんな高額な端末を持つ私は、国家機関である”考古学研究所 日本支部”という施設の人間であるが故に、この機械を持つ事が許されているのだ。
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