頼まれ事と命令と

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『今度のパスワードは、“隠れ”みたいね』 「“隠れ”…。この時代、まだ忍びとかいないはずだし…何を意味するんだろう?」 私が歩いていると、サティアがそんな事を呟く。 それに対して私も、独り言のように返事をする。 今回、私たちが降り立ったのは、平安時代の京都。最初にたどりついたのは都から少し離れた村落。服装は前回いた時代のままだったので、かなり不審がられた。しかし、親切な村民から使い古しの狩衣をもらい、現在に至る。 その時代を象徴する物や人物にまだ遭遇していないから、一概に何処と断定できないんだよね… 私はヴィンクラに入っている百科事典をチラ見しながら歩く。 周囲は活気に満ち溢れていて、町民がいろんな物を売り買いしている。 『平安時代って、やたら高貴な連中が歴史に名を残しているわよね?』 「うん…私も、藤原道長だったら文献で見たことあるけど…」 なるべく小声で話しているので問題ないが、堂々と話していたら周りに怪しまれるだろう。 周囲でいろんな物音が響くからできる会話であった。 毎度の事だが、私たちは時空を超えるたびにたどり着いた時代で、“情報保存のハードディスク”をログインできる声を持つ人間を毎度探している。ログインに必要なパスワードはその世界に着いて初めて知る事となり、サティアの口から伝えられる。 世界旅行した時みたいに、すんなり相手が見つかればいいんだけどなぁ… 『…』 そんな事を考えていた私だったが、サティアは何も言わなかった。 賑やかな市場のある大通りから脇道を入ると、周囲の風景は貴族の邸らしき物がたくさん存在する郊外へと変貌する。柵があるので中がどのような建物になっているかわからないが、柵の括りを見る限り、結構広い事がわかる。しかし、ログインしていない私は現在、こういった建築物を知識として保存する事ができない状態。こういったログインするまでの時間というのが、毎回もどかしく感じるのは言うまでもない。 「!」 気がつくと、数メートル先から牛と、牛がひっぱる車のような物が近づいてくる。 「あれは確か…」 近づいてくる物が何かと思い、私はヴィンクラを捜査する。 それによって、“牛車”という平安時代の貴族が出仕や外出の際に乗る乗り物である事が判明する。 牛が引っ張る訳だから、物凄く遅いんだろうな…牛車(あれ)…
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