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そんな事を考えていると、牛車に垂れ下がっている暖簾らしき物の隙間から、人の姿が見える。
文献で見た“烏帽子”を被っているという事は…あれは男の人?
『…いつも思うけど、沙智って目だけはずば抜けて良いよね』
私が中に乗っている人を見つめていると、サティアが感心したような声で呟く。
「…まぁ、“最も健康な部分”だしね」
サティアの呟きに対し、私はフッと哂う。
未熟児で生まれた私は、臓器補助機に頼らなければならないほど、身体が弱い。機械が組み込まれているのは、心臓近く・両腕の肘・両足の付け根の部分。しかし一方で、視力は2.0と幼少時からの視力を保ち続けている。
「あ…」
その後、牛車に乗っていた男の人と目が合う。
相手は目を丸くして驚いているような雰囲気だったが、すぐに目を逸らしてしまう。
『ほら…あんたも!そんなに他人(ひと)をジロジロ見ていたら、怪しまれるわよ』
「そ…だね。わかった…」
サティアに促され、ようやく我に返る。
視線を下した私は、道の端に立ってお辞儀をする。そんな自分の前を牛車はゆっくりと通り過ぎて行く。それを確認した私は頭をあげ、ゆっくりと数歩歩きだしたその時だった。
「…そこの御仁」
「えっ…?」
後ろの方から男の人の声が聞こえる。
思わず振り向くと、動いていた牛車がその場で止まっていた。すると、上から垂れている暖簾が揺れ、それを持ち上げている男性が現れる。上下共に黒い装束は、おそらくこの時代の役人が身につける“束帯”という物だろう。体格がよく、少し強面な雰囲気を持った男性は、私に視線を下すと閉じていた口を開く。
「先程の事から察するに、そなたは遠くまで見渡せる瞳(め)をお持ちのようだが…」
この時私は、この男性の顔を初めてしっかりと見た。
表情は硬いが、20代くらいの若い男性のようだ。
「はい…。遠くを見るのには、長けていますが…?」
さっき驚いていたのは、目がいいのを悟ったからかな…?
少し戸惑いを感じながらも、私は疑問形で返す。
『この男…もしかしたら、武人かもしれないわね』
「?」
サティアの言葉に、私は首を傾ける。
その行為を不思議に思ったようだが、特に気にしていないような表情となった青年は、次の言葉を紡ぐ。
「その目を見込んでお頼みしたい事があるのだが、今から拙者の邸に参ってはもらえぬか?」
「!!」
その台詞に、私は目を丸くして驚く。
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