波乱な日々の幕開け

2/7
前へ
/25ページ
次へ
「宜しくお願い致します」 私は自己紹介と挨拶をして、頭を深く下げる。 お辞儀をして頭を上げたが、その人物――――――ヴァルドル・ラビクリトは身体を反対側に向けて立っている。おそらく、書類に目を通しながら私の挨拶を聞いていたのだろう。ほんの一瞬だけこちらに視線を向けたと思うと、すぐに書類へと視線を戻す。 「…では、旦那様。失礼致します」 すると、隣にいた年配の女性の一言で私も再度お時儀をし、その場を後にする。 『家女中(メイド)って、何だか面倒くさそうねぇ…』 屋敷の廊下を歩いている時、サティアがポツリとつぶやいた。 今回、私たちが到達した時代が“産業革命で発展したイギリス”。例のごとくこの時代の服を調達し、人が多いと聞いて訪れたここロンドンで、何故か名門伯爵家にて家女中(メイド)をするはめになってしまったのだ。 何故メイドすることになったか――――――――――具体的な理由は私にもわからないが、他の使用人らの間では、“東洋人で珍しいから”と噂されているらしい。 その後、この大きな屋敷に暮らす伯爵家の家族構成や、どのような事業をやっているのかといった説明が、この60代くらいの家女中(メイド)長・ニコラからあった。その後、この屋敷で仕事する上での注意点を言われる。 「旦那様御一家は、主に夜の活動が多いです。そのため、我々もそれに合わせねばならぬため、昼夜逆転となります。なので、仮眠は昼間。皆が交代しながら取るので、覚えておくように」 「は…い」 今の注意点を聞いた時、私は違和感を覚える。 この時代の貴族って経営者が多くて、普通は昼間に仕事するはずだよね…? 『この家独徳のルールとかかしらね?』 心の中でそう考えていると、サティアがそれに乗ってきた。 「また、ここで見聞きした事は外部には絶対に漏らさない」 「はい」 「では、仕事の説明と実践に移ります。…ついてきなさい」 そう命じられた私は、ニコラさんの後をついて歩き出していく。 「失礼いたしまーす…」 メイド服で動くのにいくらか慣れてきた後、私はこれから起床する伯爵の一人息子の部屋を訪れていた。 どうやらこの仕事は新人メイドが毎回通る関門みたいらしく、他のメイドがいる前で普通に説明を受けたのだ。内容は、起床した息子のお茶の用意や執事が来るまでの雑用。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加