第1章

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赤い夏、16歳  顎をつたう汗が胸のミゾをはってシャツの中に消えていった。 窓を閉めていたせいで、教室の中が炙られているようだ。 シャープペンのキュッキュッという音が額の下に響いていた。  Catch off guard    『ねえー聞いてるう?さきー』 少し顔をあげると、昨日巻いたばっかりと言っていた髪の先をくるくると ひと差し指にはわせながら 咲子を上から斜めに見下ろし,右の口角をキュッと上に上げながら綾が言った。 いつもそうだ。。 こいつは。 何か企んでいるときこんな笑顔を見せる。  『いつ買いにいくー?みずぎい 小林君たちがプール行く日、日曜でいい?』 キュキュキュっと、右の口角が更にあがって 私の顔が歪むのを心待ちにしている。  私は、手元にあったスティックのお菓子を一つ口に入れた。 歯と歯の間でお菓子がパキンと弾けてバラバラになった。 ああ。 目の前にいるこいつの身体がこのお菓子のようにバラバラになればいい。 パキンパキンという音とともに、目の前にいる友人の身体がバラバラになる所を想像した。 私が身体にコンプレックスがあることを知っていて男子とプールに行こうとと誘っているのだ。  下を向いているせいで、顔に何滴もしずくが落ちた。 眼鏡がずるっと落ちる。 『Catch off guard』ノートに繰り返し書きながら、うなずいた。 歯をむき出しにして、いっぱいの笑顔を見せた。 まるで獣のような笑顔。 やったー!というように小さくジャンプして、綾が咲子の手を取った。 じゃ、みずぎ買い行こ!と無理矢理引っ張った。 ノートが床に落ちた。  
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