一人

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 夏の夜に怪奇な体験が多いのは、 夏のほうが冬より夜に出歩く回数が増えるからだと言われている。  いかに夜明かりが増え、 人々が眠らなくなっても、 夜は未だ闇の入り口に代わりはない。  夜の帳が覆うころ、 高級マンション、 いわゆる億ションの入り口に派手な外車が止まる。 特有のかん高いエンジン音は、 一般人では聞きなれないものだろうことがよく分かる。  降りてきたのは初老とは思えないほど鋭気に満ちた男性。 頭には弱冠の白髪は混じるものの、 日に焼けた顔と鍛えられた体には、 どこにも衰えを感じさせることはない。
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