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他の女性社員たちから、彼への陰口を聞いたことはないはず。
そして私自身、あの会議以外に彼と直接ぶっかった覚えはないのだ。
誰かに疎まれていると思うと、それだけで心は疲弊する。
心配そうに私を覗き込む祐の顔を見て、日々の忙しさに、浮かんだまま置き去りにしていた疑問を思い出した。
「ねえ、祐も今仕事大変なの?
部長がそんなこと言ってたけど……」
一瞬だけ見開かれた目は、すぐにまた優しく細められた。
「色々と立て込んでいるのは事実だけど、俺は大丈夫だよ。
それよりも厄介な仕事をふたばに回すことになってしまって、本当にゴメン」
「や、それは。何事も経験だし」
私は自分で自分を納得させるように、ポツリと呟いた。
すると、祐は私からマグカップを奪いテーブルに置いて、合図のように眼鏡を外す。
「もう、仕事の話しはやめようか」
返事をする間もなく、彼は少しずつ、私の体を侵食していく。
「俺が忘れさせるから」
そしてまた、私の全てが彼の気配で満たされた。
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