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桜屋デパートを後にしてから、斉藤さんはずっと押し黙ったままだった。
信号が赤に変わり、私はハンドルを握る手を緩め、そっと口を開いた。
「……斉藤さん、どうして事前の打ち合わせもなしにあんなこと?」
助手席に座る斉藤さんは前を向いたまま、私とは視線を合わそうとしない。
横断歩道の歩行者信号が点滅しだした。
私は斉藤さんから返事をもらうのを諦め、前方の信号を確認して、右足をアクセルペダルに乗せた。
窓から覗く景色がビルの群れから郊外のものに変わる頃、斉藤さんはようやく口を開いた。
「……紺野さん、あなた香の露造ってるとこ見たことありますか?」
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