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「……紺野さんには仕事の上で譲れないものってありますか?」
斉藤さんはまた顔を前へ向けた。
瞳には先ほどよりも力が宿っている。
その視線の先には製造本部、香の露をはじめ、わが社の全製品を製造している工場があった。
「僕にとってのそれは香の露です。
製品その物と、前社長の理念に強く惹かれてこの会社に入ったんだ。
それがどうです?
最近は目新しい物にすぐ飛び付いて、東京だ海外だってみんなして浮かれてる。
確かに醤油はメーカーごとの品質にあまり差がないし、利益も低い。
でも、だからこそ少しでも他社に差をつけようと我々は頑張ってるんだ。
この会社を育てあげたのは香の露です。
それなのにどうしてあなた方はそれを大事に守ろうとしないんです?」
「そんなつもりは……」
ない、と本当に言えるだろうか?
私も目先の利益や流行りにばかり目が行って、大切なことを見落としてなかった?
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