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『……悪い! 紺野』
昨日あの後、そう言ったのは菱田部長で、祐の異動は夏には決まっていたこと、私にはこのことを言わないよう、祐から口止めされていたことを白状した。
『坂崎もきっと考えがあってのことだろうから。
……キレるなよ、紺野』
部長は最後までそう念押しして、居酒屋を後にした。
そっと隣の祐を盗み見るけれど、その表情からは何にも読み取れない。
『――どうして、黙っていたの?
貴方はこれからどうするつもりなの?』
言葉はふとした瞬間に唇から零れ落ちそうになる。
それと同時に、あの夏の日、何かを誤魔化すようにして私を求めた祐の姿が脳裏を過る。
――あの時、はっきりと感じた違和感。
私は視線を前へと戻し、結局何も聞けないまま、言葉の全てを飲み込んだ。
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