氷の女神

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 そこには色褪せた絵が掛けられていた。 中央に青い法衣をまとった男、左に褐色の巨人、右に、肌のあらわな純白の衣をまとった紺の髪の女が描かれている。 「あの絵の右、あの御姿が、リーファ様におわします」 「なんだと?」  女は手を組み合わせ、祈るしぐさをした。 「リーファ様は、氷を司る精霊で、最も古い聖典にもその御姿がございます」  女は続けた。 「あの絵に描かれた三人のお方は、トルキスタ聖教の守護者です。  左は神の御者にして神の剣であるドルアーノ様。  神を守り、魔と戦う無敵の戦士です。  中央は大賢者ソルド様。  神の軍団の総帥で、魔を封じるあらゆる策を実行できます。  我々後世のために、神と三つの契約を取り交わしておられます。  そしてこの教会で主として祭っておりますリーファ様。  氷の精霊にして、神にさえ破れぬ力と、神でさえ知り得ぬ、ありとあらゆる事を知る方」  女は、先程よりも随分穏やかな微笑みを浮かべていた。 もはやシ・ルシオンを恐れた様子はなかった。 「俺は神話には興味がない。  が、お前がリーファでないことは、何となくわかった。  あの女の髪は紺だが、お前のは栗色だ」 「あなたは、本当にリーファ様に遭われたのですね。  リーファ様と私はそんなにそっくりでしたか。 何と光栄な事でしょう、神に感謝しなければ」  女はまた祈った。 容姿、仕種、声も全てそっくりだ。 が、彼女の様子を見ていると、どうやら別人な様だった。 「俺はシ・ルシオン。  お前は?」  シ・ルシオンの問いに、女は答えた。 「フェリスと申します」 「お前は禁断の部屋というのを知っているか」  シ・ルシオンはさらに尋ねた。 フェリスはすぐに、怪訝そうな顔をしてうなずいた。 「勿論です。  トルキスタ聖教最大の禁忌を記した古文書を封じた部屋です。  バザ大聖堂の地下にあると聞きますが」 「わかった」  一言言い残して背を向けたシ・ルシオンに、フェリスは驚いて声を掛けた。
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