氷の女神

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『でも、頼まなければ良かった。 あなたの手が、ひどいことに』 「構わぬ」  それ以上シ・ルシオンは何も言わなかった。  女の声も、戸惑ったまま、しばらく途絶えた。  吹雪はひどい。 『あなたはいつもそう。 いつも犠牲になりすぎるわ。 そのくせ、また沢山人を殺した』 「俺は戦士だ」 『あんなに殺さなくてもいいじゃありませんか』 「俺は戦場では、皆殺しすることにしてる」  責めても無駄なのを悟ったのか、女は哀しげな溜息をついた。 『何もかも無茶な人』  心に響く声が、涙に震える様だった。 「そんなことより、魔馬車は?」  シ・ルシオンは、女の泣き声にも全く動じない。 無感動と言うより、鉄の意思が彼をそうさせている様だ。 氷の中の女にも、それはわかっていた。 わかってはいても、女は諫めたくなるらしかった。 『マルゴー遺跡にいます。  途方に暮れて』 「わかった」 『駄目よ』  すぐに立ち去ろうとする戦士を、女は止めた。 『今行けば、戦いになるわ。  もう少し落ち着いてからの方が良くないかしら』 「戦って朽ちるのなら、互いにそれまでだ」  そう言い捨てて、シ・ルシオンは氷の中の女に背を向けた。 「また様子を見ていてくれ」  一言そう残して、彼は立ち去った。
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