氷の女神

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 町を出てしばらく歩く。 冬だった。 毛皮を調達してそれで寒さをしのいだ。 それにしてもこの日は、酷く冷え込んだ。 やがて吹雪になった。 彼は道ばたの岩陰に隠れ、夜を過ごすことにした。 木ぎれを寄せ集め、火をおこし、暖を取る。 火の側で、彼はうとうとし始めた。  すると、不意に声がした。 「可哀想な人、それほど戦いたいというのが、私にはわかりません」  はじめての経験だった。 彼は熟睡していても人の気配に気づく様な人間だった。 だというのに、その声の主は、彼に気配を感じさせなかった。 彼はとっさに大剣を抜き、声の主を斬ろうとした。  だが、剣がその頭蓋を割る寸前で、彼の剣は止まった。  それは、女だった。  憐憫に満ちた藍色の目で、シ・ルシオンを見つめている。 全く動じた様子がない。 「私はリーファ。  あなたの力を借りたいのです」  その女は、シ・ルシオンが今までに見た全ての女より美しかった。 透き通るように肌が白く、この吹雪の中だというのに薄い衣を軽くまとっただけの、肌もあらわな姿だ。 紺色の美しい髪が風に揺れる。 「戦か?」 「……そうであれば、まだこの地上は救われるのでしょうけど」  女、リーファは、少しうつむき、恐怖に歪んだ顔をした。 「放っておけば、多くの人が死にます」 「何万人もか?」 「桁が違います。  四つほど」 「なに?」  シ・ルシオンには、絵空事のように思えた。 もしかするとこれは、夢なのかも知れない。 そう考えた方がしっくり来るように思えた。
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