氷の女神

7/12
前へ
/12ページ
次へ
「なぜ、人々は死ぬと思うのだ」  リーファはまだしばらく泣きやまず、嗚咽をした。 美しい顔が、涙でくしゃくしゃになっていた。  随分長い間、シ・ルシオンは待った。 リーファの嗚咽が徐々に静まっていき、ようやく彼女は少しずつ喋り始めた。 「マイクラ・シテアという魔導師がいて、その者が、人々を殺戮します。 そのための手段を今日、マイクラ・シテアは知るのです。  その昔、トルキスタ聖教の高僧達が封印した禁断の部屋に入って、禁断の書を奪います。  そこに書かれたことが、いずれ彼に破滅的な力を与えてしまいます。  そして、それが更なる、取り返しのつかない災いを引き寄せます」 「なぜそこまでわかっているのなら、お前が止めないのだ?」 「私は、ただ、知ることしかできないのです。  私は愚かで、知ってもなお、どうすることもできませんでした。  でも、ある小さな女の子が教えてくれました。  魔法が悪いのなら、魔法を封じたらいいと」  リーファはシ・ルシオンを、藍色の澄んだ瞳でじっと見つめた。 その瞳には、不安や恐怖が漂いながらも、その核心には、重く厳しい決意に似た輝きがあった。 「あなたは魔封じだと、私は知りました」 「理解できぬ」  諦めた様にシ・ルシオンは吐き捨てた。 「それは、私が愚かだからですか」 「そもそも魔導というものが本当にあるのかが、俺には全くわからぬ。  それに、俺はお前のために何をしてやればいいのかもわからぬ。  マイクラ・シテアという者の名も初めて聞いた。  俺が魔封じと言うが、そんな確証はどこにある。  わからぬことばかりだ。  理解できぬ」  シ・ルシオンは、小さな溜息をついた。 「俺は戦士だ。戦えと言うなら戦う。  せめて、今俺に何をしてほしいかぐらい、言うがよい」  その言葉を聞くと、リーファは顔を輝かせた。 「ああ、ありがとう、ありがとう」  またリーファは泣き始めた。  シ・ルシオンは半ばあきれていた。 女というのはこうなのか、と疑った。 彼は今まで、女を抱いたことはあるが、こんな形で関わったことはなかった。 全然彼の期待と違う反応をするし、簡単に傷ついたり喜んだり、そして泣き出す。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加