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バザ大聖堂は、バザ市街の中心部、市庁舎の隣にある。
赤レンガ造りで、上空から見れば、真北に向けた三つ又槍を象っている。
三つ又槍を真北に向けるのは、大賢者ソルドの遺言と言われている。
聖なる存在である太陽が持つ槍、という解釈が主流だ。
大聖堂の周囲は堀に囲まれ、各所に尖塔がある。
戦時には強固な砦になるよう設計されており、トルキスタ聖騎士団の拠点となる。
南端の一際大きい尖塔には、街に時刻を告げる鐘楼があり、正門はこの鐘楼の真下にある。
正門前には巨大な桟橋があり、戦時以外は下ろされたままだ。
バザ大聖堂の主は、大司教コロネオである。
シ・ルシオンのような戦士でさえ、その名を聞いたことがあった。
フェリスから聞いた地下室の話は、コロネオに聞けば詳しくわかるだろうと考え、シ・ルシオンはとりあえずここへやって来た。
普通は諦めそうなものだが、彼にはそんな発想は微塵もなかった。
シ・ルシオンは正門を守る衛兵に声を掛けた。
「大司教コロネオはいるか?」
当然衛兵は止める。
「貴様は何者だ?」
「シ・ルシオンという。
大司教に尋ねたいことがあって来た」
「馬鹿かお前は?
お前のような野蛮人に大司教様が会うはずがなかろう、帰れ帰れ」
衛兵は野良犬でも追い払うように手をひらひらさせた。
他にも数人衛兵がいたが、全員で下品にげらげら笑っている。
「金でも積めば、黙って通してやってもいいぜ」
「ダメだなぁ、金を積んで、俺たち全員の靴をぺろぺろなめることだな」
衛兵らは、仮にもトルキスタ聖騎士の一員であるが、実に品がなかった。
「また来る」
シ・ルシオンは背を向けた。
彼は夜を待った。
夜になっても桟橋は下ろされたままだった。
衛兵は、どうやら交代したらしいが、やはり数人いる。
なにやら大きな声で笑っている。
酒も入っているようだ。
シ・ルシオンは、疾風のように桟橋を駆け抜け、衛兵達が足音に気づいたとほぼ同時に、悲鳴を上げる暇も与えずに全員を斬っていた。
彼は眉一つ動かさない。
頑丈な鉄格子の扉を剣の一撃でたたき壊し、何事もなかったように大聖堂に踏み込んだ。
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