禁忌

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 大聖堂は、あれほど大きな物音がしたのに、特に動きもない。 普段どれほど馬鹿騒ぎしながら警備しているのかが想像できた。  シ・ルシオンは、暗い聖堂を歩いて回った。 地下室というから、階段があるだろうと踏んでいた。 が、地下に下りる階段は、なかなか見付からない。  やむなく彼は、大講堂に向かった。 そこで夜明けを待つつもりだった。 そのうち誰かが来る。 そこから地下室を探り出す考えだった。  真夜中の広い講堂は、ひんやりしていて、自分の鼓動が聞こえるほどに静かだった。 シ・ルシオンは講壇に腰を下ろし、剣を足下に置いた。そのまましばらくうたた寝する。  しばらくして、彼はかすかな気配で目を覚ました。  大講堂の隅にある通用口から人が入ってきた。 ランタンの火がわずかに講堂を照らす。 人影は、ためらいや動揺を見せず、まるでシ・ルシオンと待ち合わせしていたように、真っ直ぐ近づいてきた。 「ああ、夢はまことであったか」  老人の声だった。 シ・ルシオンはゆっくり立ち上がった。  摺り足で大理石の床を歩き、老人は近寄ってきた。 小さく、背中は丸かった。 暗がりのランタンだけでもその貧弱さがわかるほどだった。 どことなく人を包み込むような雰囲気があり、気品も感じられた。  しかしその一方で、なぜかどこかに殺気も感じさせた。 「わしはコロネオという。  この聖堂で司教をしておる。  勇ましき者よ、お主は何と申す?」  シ・ルシオンは多少驚いた。 この老人は、大司教コロネオ本人らしかった。 「俺はシ・ルシオン。  地下室を探している」 「なんと」  コロネオは少し大きい声を上げた。 「聖典を読まれたのか、それとも誰かから聞かれたか」 「人から聞いた。  禁断の部屋というところに入った人間を探している」 「入った?」
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