禁忌

7/10
前へ
/10ページ
次へ
 それを皮切りに、続々と市中から人間が引きずり出され、殺された。 死体は堀のそばに並べられ、首を落とされ、その血を堀に注がれた。 医者の家にいた子供も殺された。 「これでいい。  魔の恐怖を全て断ち切るのだ」  コロネオは、自身が魔にとりつかれた形相で、ニタニタと笑った。  しばらくたった明け方のことだった。  大聖堂前に、一人の男が連れてこられた。  真っ黒いぼろ布をまとい、歪んだ黒い木の杖を頼って歩いている。  その者が現れた途端、周囲は、ただの虐殺の場ではなくなった。 誰もが、その異様な気配に凍りついた。  そこにいた全員が、自分の魂がねじり潰されるように感じた。 また、闇に引きずり込まれるのを感じた。 無限の怨霊を見た。 騎士たちも、連れ出された哀れな犠牲者たちも、大司教コロネオも、同じだった。 ただ為すすべなくがたがた震えた。 「いい祭りだぁひゃひゃひゃ」  そこにいた全員の頭の中に、地獄の割れ鐘のような声が轟音で直接響く。 ばたばたとあちこちで何人もが気絶する。 ショック死した者もいた。 「おやおや、この祭りの主催者は、自分の代でトルキスタ聖教が千年に渡って守り続けた封印を破られた、とっても無能で恥ずかしい大司教コロネオ猊下でありましたかぁひゃひゃ、お招きいただき、ありがとうぅふふひひ」  ぼろ布の男は、ふわりと浮き上がり、なめらかにコロネオの前に移動した。 コロネオは失禁し、呼吸がままならず、涙とよだれと鼻血を垂らした。 「さて問題です。  封印を解いた人は、誰でしょう?」  深くかぶったフードの下で、歯のない紫色の口が、ニタリと笑う。 「それはね、夢で操り人形にされちゃった、コロネオ大司教猊下なぁのでしたぁひゃひゃひゃ」  その言葉と同時に、正門の上、鐘楼の上空に、何かが映し出された。  それは暗い部屋で、ランタンの灯りが揺らめいている。 巨大な水晶の壁が正面にあり、中に四体の法衣をまとったミイラが、祈りを捧げたままの姿で封じられている。 その向こうには、重々しい鉄の扉があり、三つ叉槍の紋章が描かれている。  その水晶の壁の前で、ランタンを持っているのは、コロネオだった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加