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「馬鹿な」
コロネオは叫んだ。
「三カ月前、あなたは夢を見ながらここへ来たのです。
そして、さあ始まりましたよ」
上空に映し出されたコロネオは、足元にランタンを置き、両手を水晶に向けた。
長々と何かの呪文を唱えているようだ。
「や、や、やめろ」
コロネオはぼろ布の男にすがろうとした。
が、ぼろ布はするりとかわす。
上空に映し出された水晶の壁が、紫色に光った。
かと思えば、水晶の壁は木っ端微塵に砕け散った。
中のミイラもずたずたになった。
上空の映像は、突如消えた。
「悪いよねえ。
大司教猊下ともあろう立場の人間が、自分の代で封印を破られたのが恥ずかしくて、苦し紛れに虐殺して、しかも封印解いたのは、自分なんだよねぇへへひひ」
ぼろ布の男が少し杖を動かした。
すると、コロネオの目の前に、ぎらぎらと紅い、まがまがしい形の短刀が出現した。
「どうぞ」
「な、な」
コロネオはうろたえた。
わなわな震えるばかりだ。
すると、ぼろ布の男は、その蝋のように青白い皺だらけの顔をぬっとコロネオに近づけた。
その目が、赤く光っている。
「わからぬのか、本当に馬鹿だなこの老いぼれが。
罪深い馬鹿は死んで詫びろと言うておるのだ」
そう言うと、ぼろ布の男はコロネオの右手首を凍てつくように冷たい手で握り、無理やり不吉な短刀を握らせ、するりとコロネオから離れた。
コロネオはしばらく切っ先を見詰めていたが、やがて無造作に自分の喉を突いた。
白々と夜が明ける中、赤黒い噴水が上がった。
コロネオはしばらく手足をばたつかせたあと、その場に倒れ、血の泡を吹き、やがて動かなくなった。
死体の周りで、血だまりがゆっくり大きくなった。
ぼろ布の男はふわりと浮き上がった。
騎士たちや魔導師狩りの犠牲者たちも、その姿を食い入るように見ていた。
「トルキスタ聖騎士団の皆さん」
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