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その書物の最初に「紅き宝玉」という章がある。
本は古代語で書かれ、今にも朽ちそうだ。
各頁の羊皮紙は随分黄ばみがひどく、あちこちかびている。
本にすがりつく様にして解読を進めるのは、マイクラ・シテアである。
窓一つない部屋に蝋燭の灯だけの、じめじめした部屋だ。
鼠や蛇、犬、猫、猿、羊など、様々な動物の干物が部屋からあふれる程山積みにされ、禍々しい彫刻品や古文書なども混じっている。
蝋燭が揺れる度に、それらが生きたようにうごめいて見える。
マイクラ・シテアはまだバザにいた。
一旦シ・ルシオンから逃げたが、自分の拠点を変える気はなかった。
バザがより魔を使いやすい地理だったためだ。
トルキスタ聖教の聖地には、そういう場所が選ばれている。
解読は、遅々として進まない。
今まで彼が見たどの古代語より古く、文字も違った。
それでも彼は、鬼気迫る様子で解読を進めた。
紅き宝玉は、魂の採取に使われる。
例えばそれを獣に埋め込めば、獣は宝玉の魂が制御する。
魂を採取するには、あらかじめ宝玉を生きた誰かに埋め込み、その人間が死ぬのを待つ。
採取する者自ら殺してはならない。
魂も死ぬ。
解読は三か月でようやくこの程度だった。
作り方や人への埋め込み方などは、まだわからない。
マイクラ・シテアには、まだこの古文書が何のためのものか、わかっていなかった。
が、末尾を少し読んでみた時、彼は湧き上がる狂喜を抑えられなかった。
そこには、魔界門の記述があった。
魔導師は、魔界と現世の間にある狭間の世界の力を呼び出せる。
ほとんどの魔導師がインチキで、ごく一部が本物だが、本物でも現世に近い領域しか使えない。
マイクラ・シテアは極めて優れていて、より魔界に近い層の力を呼び出せた。
だがそれでも、魔界の力ではない。
では魔界とは。
いかなる殺戮が可能となるのか。
マイクラ・シテアは、それを知り、それを使い、人々を殺戮し地上を蹂躙したかった。
彼にとって、それこそが生きる価値であった。
「それにしても」
ふと彼は呟く。
「奴は何者だ」
シ・ルシオンを思い出していた。
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